失敗知識データベース(DB)の試験公開が始まる

2003年4月

事故やトラブルなど、失敗の情報を共有し、同様の失敗を繰り返さないよう、科学技術振興事業団が進める「失敗知識データベース(DB)」の試験公開が始まった。公開されたのは「機械」「材料」「化学物質・プラント」「建設」の四分野で約五百六十事例。H2Aロケットの墜落や、美浜原子力発電所の水漏れ事故などが含まれている。

『原因』『行動』『結果』に3分類

知識不足や思いこみなどの「原因」、誤操作、自己保身などの「行動」、大規模破損、経済損失などの「結果」で分類し、検索できるようにした。事例はそれぞれ発生日時、場所、経過、対処、対策、背景のほか、オープンになりにくい後日談やよもやま話なども可能な限り盛り込み、活用しやすいようにしたという。

畑村洋太郎・工学院大教授

DBづくりは「失敗学のすすめ」の著者で、失敗学会を設立した畑村洋太郎・工学院大教授が中心となって取り組んでいる。今後、利用者の意見も取り入れながら、表示方法などを改良し、千例を目標にデータを追加していく。

産業技術総合研究所の構造化知識研究

2018年

一般に知識を共有するために、テキストで書かれたマニュアルが用いられている。しかし、テキストで書かれたマニュアルは、各行為の目的や根拠が欠けていたり、行為間の関係が不明瞭だったりする場合が多い。

構造化マニュアル

そこで、産業技術総合研究所(産総研)では、西村悟史研究員を中心に、行為を目的指向で構造的に記述する方法を開発した。これで作製した構造化マニュアルでは、行為の目的と根拠が明確となり行為のまとまりや行為間の関係も明確になる。人が理解しやすく、同時にAIが高度な検索や推論に活用しやすい構造化知識としての利用が期待できる。

データと知識を融合するシステムを構築

また、構造化マニュアルの各行為を各種のデータとリンクできるようにして、データと知識の融合を支援するシステムを構築した。データとしては経験や状況のIoT(モノのインターネット)データ、業務の実施記録や事故記録、効果評価結果などさまざまな組織内の活動情報を想定している。産総研では、これにより知識と経験の共有だけでなく、AIによる教育支援・リスク低減支援や業務プロセスの改善支援を実現したい考えだ。

複合材料に関する知識情報構造化とエキスパートシステム研究会

1990年

開発支援ESのプロトタイプ完成にメド

情報の追加書き込みが簡単にでき、パソコンやワークステーションで複合材料の開発を支援するエキスパートシステム(ES=専門家システム)のプロトタイプが1990年3月にも登場する。

産学官の研究者63人で組織する「複合材料に関する知識情報処理とエキスパートシステム研究会」(主査・三木光範氏=大阪府立大学助教授)が完成のメドをつけた。

人間の熟練技術をコンピューターが肩代わり

ESは人間の熟練技術をコンピューターに肩代わりさせるシステム。いままでは成形加工やプラントの保守管理など特定の現場作業に使用する専用システムがほとんどだった。

オブジェクト志向

そこで「複合材料に関する知識情報処理とエキスパートシステム研究会」はデスクサイドで専門的な検討、計算が手軽にできるようにとの考えから、複合材料に関する基礎的な知識を抽出、オブジェクト志向で知識情報を構築。計算機言語はスモールトーク-80を使用した。

知識構造と具体的知識をマニュアル化

知識ベースは新しい情報の追加が容易に行えるよう知識構造と具体的知識をマニュアル化し、ガイドラインを設定することで個別に集積された知識を共有化できるようにした。

研究、指導を支援

三木助教授は「まだ第一歩を踏み出したところで知識量も少ない」としながらも「1、2年後には複合材料の研究、指導を強力に支援する低価格のESを完成させる」と自信のほどをみせている。

FRP(繊維強化プラスチック)シンポジウム

このプロトタイプは1990年3月14、15日の両日、大阪市西区の大阪科学技術センターで開かれるFRP(繊維強化プラスチック)シンポジウムで公開される。

長岡の「豪技」東京で大宣伝 アルミ鋳物など2007年6月27日から、見本市に9社出展/新潟県

2007年6月20日、朝日新聞

鉄工や鋳物に代表される伝統的な地場産業のほか、工作機械や精密機械関連の企業が数多く立地する新潟県長岡市。高い技術が集積する地域としての知名度を高めようと、長岡産業活性化協議会(通称NAZE、松原亨会長)が、売り込みを図っている。2007年6月27日から東京で始まる見本市には、長岡産業活性化協議会の取り組みに呼応した9社が出展する。

この見本市は「第11回機械要素技術展」。日本最大規模とのふれこみで1320社が出展し、6月29日までの3日間、江東区有明の東京ビッグサイトでPRを繰り広げる。

長岡で長年の間に培われた高い技術力と、そこから生み出される優れた製品--。これらを総称してNAZEは「豪技」と名付け、紹介に努めている。「すごい」を意味し、長岡でよく使われる「豪儀」にかけた造語だ。

NAZEの音頭取りで今回の見本市に出展するのは、アルモ、今井鉄工、小西鍍金(めっき)、古川機工、三好、浅田精機、エヌ・エス・エス、ストロベリーコーポレーション、テラノ精工の9社。アルモから三好までの5社は共同出展で、500万円近い経費はNAZEも負担する。

車両用アルミ鋳物のアルモをはじめ、その世界で評価を得ている企業ばかり。中でも注目を集めそうなのが、古川機工の「すくい上げ移載機スイットハンド」だ。

ケチャップや生クリーム、ハンバーグなど、やわらかい物でも形崩れさせずにすくいあげ、移動させることができる。NAZEのプロジェクトマネジャー市野之彬(これあき)さん(64)は「間違いなく人気を呼ぶだろう」と太鼓判を押す。

古川機工の古川寛康社長(59)は「2年がかりで形にできた。今までなかった技術で、人間にもまねができない。作業の自動化、省力化に役立つはず」と胸を張る。見本市に出展するメリットについては「全国から技術者が集まるため、用途開発に必要でニーズにつながる情報が得られそうだ」と話す。

NAZE事務局の平沢広栄さん(40)は「自分の技術を提案するプレゼンテーションの力も磨かれるはず」と、出展の効果を期待している。

すくって形を崩さず移動 アイデア機器、ネットで話題 長岡の会社が開発=新潟

2011年12月22日、読売新聞

テーブルの上のマヨネーズやケチャップなど、触れただけで変形するようなやわらかいものを、形を崩さずにすくい上げて別の場所に移す--。そんな機能を実現した製品が、インターネットの動画サイトで話題を呼び、売り上げも急拡大させている。

産業用機器製造「古川機工」(新潟県長岡市)の製品「SWITL(スイットル)」。約5年前、古川寛康社長(64)が取引先のパン製造業者から、焼く前の柔らかい状態の菓子パンの形を崩さず、そのまま移動させる機器の製作を依頼されたのが、スイットル誕生のきっかけだった。

本体から出し入れするプレートは金属製で、フッ素樹脂製のシートで先端と上下に巻かれている。物を載せるプレートが本体から伸びると、シートも下側から送り出される。シートはプレートの上では動かず、下ではプレートの伸び(縮み)の2倍移動する。これにより、プリンのような柔らかいものも、シートと一緒にプレートに乗せたり、降ろしたりできる仕組みだ。

「アイデアにはそれほど苦労しなかった」と話す古川社長。パン用に製作した機器だったが、マヨネーズなどもそのままの形状で移動が可能で、「すくう機器はあまりない。これなら行ける」と感じたという。

2009年にテレビ番組の新製品・技術を紹介するコーナーの年間大賞に選出。2011年はNPO法人「長岡産業活性化協会」(NAZE)から、革新的な技術や製品を対象とした認定も受けた。機器を紹介したインターネットの動画サイトでは、再生回数が200万回を超えたものもあり、「手品のようだ」などの称賛も寄せられたという。

古川機工によると、約7万円のハンディータイプから、数千万円のオーダーメードまで、スイットルの技術を使った機器の取引は約300件。2011年だけで約200件に上っており、一気に古川機工の主力製品となった。

食品だけでなく、接着剤などを使う自動車生産現場などでも採用され、海外からの引き合いも多いという。古川社長は「医療用など応用できる分野は広いはず。知名度は上がってきており、新たな用途の開拓を進めたい」と意気込んでいる。

構造化知識研究 小宮山宏

「知識の構造化・講演・小宮山宏著」(2008年3月17日、安全設計研究所)

現東京大学総長である著者がテーマとする「知識の構造化」の講演バージョン。前作(「知識の構造化」)から3年、一般の人たちにも理解が得られるように、数々の講演をベースに最新の内容を追加して編集された。

内容は著者が20年来考え続けてきた「知識を構造化することの必要性」を説き、「知識の構造化」こそが、現在われわれが抱える大規模で複雑な問題を解決する鍵であるとする。

著者が説く「知識の構造化」とは、知識の関連付け、人、IT、およびこれらの相乗効果によって、膨大な知識にも適応可能な、優れた知識を構築することであり、関連付けられた知識群のことを「構造化知識」と定義する。

「知識の構造化」には、この「構造化知識」と人とITの3つを併用することが重要であり、三位一体となって、全体像の俯瞰と詳細への理解が深まるという。このことは、科学の分野に関わらず、人文社会系の分野にも適応できるし、そのニーズは今後一層高まっていくと述べる。

(四六判、256ページ、本体価格1600円+税、オープンナレッジ刊、東京都文京区本郷5-26-4)

東京大学、知の構造化知識研究センター設立へ

学術知識を体系的価値に(2006年12月)

東京大学は、「知の構造化センター」設立に向けた取り組みを本格化する。構造化知識研究センターは、細分化した学問領域を知識システムとして構築、新たな知的、経済的、社会的、文化的な価値にする手法で、小宮山宏総長が2005年、就任時に提唱した。センターでは個々の学術知識を系統的に関連付けなどを行い分野・領域を超えて知識を有効的に活用する手法の開発に取り組む。2006年11月、工学系研究科などが中心となって準備会(会長・松本洋一郎工学系研究科長)を立ち上げ、構想実現に向けて動き出した。早ければ2008年度の設立を計画している。

学問は領域の細分化、深化が進み、統合的に知識を把握することを困難にしている。このため分散する膨大な知識を価値に結びつけるために体系的な知識システムにするのが知の構造化だ。センターでは知識同士の関係性を明らかにし、階層性、因果性、関連性、類似性などに分類、知的、経済的、社会的、文化的価値の創出のための知識群を結びつける手法などを開発する。

さらに知の構造化は知識の全体像を捉えることを意味し、研究、高等教育の方向性を把握するのに役立つ。専任教員は国際公募で採用するほか、兼任教員も学内公募で募集する。

2006年11月発足した準備会のメンバーは工学系研究科のほか生産技術研究所、情報学環の教員で構成した。今後、準備会を中心に予算確保など具体的な検討に着手、2007年夏の2008年度予算の概算要求までに骨格をまとめ、2008年度の発足を目指す。